仕事はできる。でも人が辞める。
「優秀な職人=良いリーダー」ではない理由
技術があって、仕事も早くて、現場を任せられる人。そういう職人にリーダーを任せたら、なぜかその班だけ人が辞めていく。私たち自身も、現場の人員配置を考える中で、この問題に直面したことがあります。
この記事の要点
・「仕事ができる」ことと「人を任せられる」ことは、まったく別の能力です
・本人の能力ではなく、人員配置や組み合わせが原因のこともあります
・私たちも現場で人員配置を見直した経験から、この記事を書いています
建設業では、仕事ができる職人に現場を任せることは珍しくありません。
技術がある。
現場を理解している。
仕事が早い。
責任感もある。
そういう人がいれば、「この人なら人を任せられる」と考えるのは自然なことです。
ただ、実際に人を配置してみると、「仕事はできる。でも、この人の下に付けると人が続かない」という問題が起きることがあります。
私たち自身も、現場の人員配置を考える中で、この問題に直面したことがあります。
そこで感じたのが、「職人として優秀であること」と「人を任せられること」は、まったく別の能力ではないか、ということでした。
今回は、少人数で現場を回す建設会社ほど考えておきたい「職人とリーダーの違い」について、実際に現場を運営する側の視点から考えてみます。
仕事ができる人に現場を任せたくなる
3人、5人、10人といった少人数で現場を回している会社では、一人ひとりの存在が大きくなります。
その中に経験が長く、仕事もできる職人がいれば、自然とその人が中心になります。
経営側としても、「自分がずっと現場を見るわけにはいかない」「経験のある人に若手を見てもらいたい」「この人なら現場を任せても大丈夫だろう」と考えます。
ここまでは、特におかしなことではありません。
問題は、仕事を任せられる能力と、人を任せられる能力を同じものとして考えてしまうことです。
職人としての能力と、リーダーとしての能力は違う
例えば、職人として優秀な人には、
・作業が早い
・仕上がりがきれい
・危険なポイントを理解している
・段取りができる
・図面を読める
・現場経験が豊富
といった特徴があります。
一方で、人を任せる立場になると別の能力が必要になります。
相手の経験に合わせて教える。
できない理由を考える。
ミスを指摘するときに、次の行動まで伝える。
周囲の状況を見る。
本人が質問しやすい状態をつくる。
人によって伝え方を変える。
こうした能力は、溶接がうまい、配管ができる、施工が早いといった技術とは別物です。
極端に言えば、会社で一番仕事ができる職人が、会社で一番人を育てられるとは限りません。
「自分ならできる」が基準になると、人が苦しくなる
仕事ができる人ほど、自分の中では当たり前になっていることがあります。
「これくらい分かるだろう」
「一回言えばできるだろう」
「俺のときは教えてもらわなくてもやった」
本人からすれば、悪気があるわけではないことも多いです。
むしろ、「早く仕事を覚えてほしい」という責任感から厳しくなっている場合もあります。
ただ、その基準が経験の浅い職人にもそのまま適用されると、教える側は「なんでできないんだ」となり、教わる側は「自分は仕事ができないんじゃないか」となっていきます。
ここが怖いところです。
本人の能力ではなく「組み合わせ」が原因かもしれない
誰かが現場でうまくいっていないと、「仕事ができない」「やる気がない」「向いていない」と本人の能力の問題として考えてしまいがちです。
ただ、実際には人員配置の問題ということもあります。
教える人が変わった。
現場が変わった。
任せる仕事が変わった。
それだけで、急に力を発揮する人もいます。
逆に、能力のある人でも、相性の悪い人の下では本来の力を出せないことがあります。
だから、一つの現場だけを見て「この職人はできない」と決めてしまうのは早いと思っています。
一度環境を変えてみる。
別の人と組ませてみる。
違う現場を経験させてみる。
それでも同じ問題が起きるのかを見る。
人を辞めさせる前に、会社側で試せることはあります。
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同じ規模の会社がどう組み合わせを工夫しているか、参考になることがあります。
厳しく指導すること自体が悪いわけではない
ここは誤解したくないところです。
建設現場では、一つのミスが事故につながることがあります。
品質について妥協できない場面もあります。
危険な行動をしていれば、その場で強く止めなければいけません。
だから、「優しく教えればいい」という単純な話ではありません。
必要なのは、厳しさをなくすことではなく、何のために厳しくしているのかが相手に伝わっているかだと思います。
「危ないからやめろ」と「なんでそんなことも分からないんだ」では、同じ強い言葉でも意味が違います。
安全や品質について厳しい人と、感情的に人を追い込む人は分けて考える必要があります。
人が辞めてから気づくのでは遅い
特に少人数の建設会社では、一人辞める影響が大きいです。
5人の会社なら、一人辞めるだけで単純計算では人員の20%がいなくなります。
新しく採用するにもお金がかかります。
採用できても、現場で動けるようになるまで時間がかかります。
残った人の負担も増えます。
それなら、「辞めます」と言われる前に、人間関係や配置の異変を拾う方が圧倒的に安いはずです。
例えば、次のようなサインです。
・以前より発言が減った
・質問しなくなった
・特定の人と組むことを嫌がる
・「自分は仕事ができない」と言うようになった
・急に休みが増えた
こうした変化があれば、単純に本人の問題として片付けず、一度話を聞いた方がいいと思います。
では、仕事ができる職人をどう扱うべきか
リーダーに向いていないからといって、その人の評価を下げる必要はありません。
ここも重要です。
技術力が高い人は、会社にとって大きな戦力です。
だから、「技術者としての評価」と「マネジメントの評価」を分けて考えます。
例えば、こんな役割分担です。
・難しい施工を任せる
・品質管理を任せる
・技術面で若手をサポートしてもらう
・現場全体の人間関係や育成については別の人が見る
こういう役割分担もできます。
全員を「人をまとめる人」にする必要はありません。
現場で技術を極める人がいてもいい。
人を育てるのが得意な人がいてもいい。
段取りが得意な人がいてもいい。
会社として重要なのは、その人が一番力を発揮できる場所に置くことです。
人員配置は「誰が一番できるか」だけで決めない
現場のメンバーを決めるとき、経験年数や技術力は当然重要です。
ただ、それだけではなく、「誰と誰を組ませるか」まで含めて考える必要があります。
例えば3人の現場なら、技術力の高い人、周囲を見られる人、これから育てたい人、という組み合わせもあります。
全員がエースである必要はありません。
むしろチームとして考えたとき、個人の能力の合計より、組み合わせの方が重要になることがあります。
私たちも、人員配置を見直した
私たちの現場でも、実際に人員配置について悩んだことがあります。
仕事を任せられる経験者がいる一方で、その人との関係から別のメンバーが自信を失っているように見える状況がありました。
最初は、「本人の技術力の問題なのか」とも考えました。
ただ、話を聞いていくと、それだけではない可能性が見えてきました。
そこで考えたのが、一度違う環境で仕事をしてもらうことでした。
別の人と組んでも同じなのか。
別の現場でも同じ評価になるのか。
そこで問題なく仕事ができるのであれば、本人の能力だけではなく、配置や人間関係にも原因があったと考えられます。
まだ私たち自身も、これが絶対に正しい答えだとは思っていません。
人の問題に、簡単な正解はないからです。
ただ、「できない人」と決める前に、会社側が配置を変えて確かめる。
これは小さな建設会社でもできることだと思っています。
まとめ
仕事ができる職人は、会社にとって貴重な存在です。
ただ、「仕事ができる」=「人を任せられる」とは限りません。
技術力。
指導力。
コミュニケーション。
マネジメント。
それぞれ別の能力として見た方が、人員配置は考えやすくなります。
そして誰かがうまくいっていないときも、「本人が悪い」「教える側が悪い」とすぐに決めるのではなく、そもそもこの組み合わせが合っているのか、という視点を持つことが大事です。
人が少ない会社だからこそ、一人ひとりをどう配置するかは経営そのものです。
私たちもまだ試行錯誤しています。
現場で実際に起きたこと、そこで考えたことについては、これからも現場交差点マガジンで発信していきます。
