職人が「自分は仕事ができない」と思い始めたとき、
会社はどう動くべきか
「自分は仕事ができないと思います」。職人からこの言葉が出たとき、それをそのまま能力の評価として受け取るのは早いかもしれません。自己評価と実際の能力は、分けて考える必要があります。
この記事の要点
・本人の自己評価と、実際の能力は分けて考える必要があります
・「いつから」「どの現場・誰と組んでから」を確認すると、原因が見えてきます
・教える人や現場を変えてみることは、本人を守るためだけでなく能力を正しく見るためにも使えます
「自分、この仕事向いてないかもしれません」
「自分は仕事ができないと思います」
職人からこんな言葉が出てきたとき、会社としてどう対応するか。
本当に仕事ができないのかもしれない。
まだ経験が足りないだけかもしれない。
教える人との相性が悪いのかもしれない。
そもそも、本人が自分を正しく評価できていない可能性もあります。
ここで会社側まで、「本人もそう言っているなら、向いていないのかもしれない」と判断してしまうのは少し早いです。
職人本人の自己評価と、実際の能力は分けて考える必要があります。
「自信がない」と「仕事ができない」は違う
まず分けたいのが、この2つです。
仕事ができない。
自信がない。
似ているようで、まったく違います。
例えば入社して半年の職人が、10年やっている職人と自分を比較して、「自分は全然できない」と感じている。
これは当然です。経験年数が違います。
逆に、ある程度経験があるのに同じミスを何度も繰り返しているなら、技術や仕事の進め方に課題がある可能性があります。
重要なのは、本人の感想だけで能力を判断しないことです。
なぜ「できない」と思うようになったのか
本人から「自信がない」という言葉が出たら、まず確認したいのは、いつからそう思うようになったのか、です。
入社したときからなのか、特定の現場に入ってからなのか、特定の作業を任されてからなのか、誰かと組み始めてからなのか。
ここで原因がかなり変わります。
例えば、以前の現場では問題なく働いていたのに、配置変更後から急に「自分はできない」と言うようになった。
この場合、本人の能力が突然落ちたとは考えにくい。
仕事の難易度が上がった、教える人が変わった、求められるスピードが変わった、周囲との比較対象が変わった。何か環境側の変化があるはずです。
毎日注意され続ければ、自己評価は下がる
仕事を覚えている途中なら、注意されること自体は普通です。
現場なので、安全や品質について厳しく言わなければならない場面もあります。
ただ、毎日、「遅い」「違う」「なんで分からないの?」「前にも言ったよね」と言われ続ければ、本人の中には少しずつ、「自分は仕事ができない」という認識ができていきます。
ここで厄介なのは、本当に動けなくなっていくことです。
怒られないように動こうとする。勝手にやったら怒られると思う。だから確認したい。でも聞いても怒られる。結果、動けなくなる。
すると周囲からは、「指示待ち」「自分から動かない」と見える。さらに注意される。悪循環です。
「もっと自信を持て」では解決しない
こういう状態の職人に、「もっと自信持ってやれよ」と言っても、あまり意味はありません。
必要なのは精神論ではなく、何ができていて、何ができていないのかを具体的にすることです。
例えば、こんな分解です。
・配管の加工は一人でできている
・図面の確認はまだサポートが必要
・段取りは少し遅い
・安全面については問題ない
・この作業はまだ経験回数が少ない
そうすると、「全部できない」ではなく、「ここまではできている。ここから先がまだできない」になります。
この差は大きいです。
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似た経験をした経営者からヒントが得られることがあります。
経験年数ではなく「できる仕事」で見る
建設業では、「何年やってる?」という話をよくします。
もちろん経験年数は一つの基準になります。
ただ、同じ3年でも経験してきた仕事は違います。
3年間ずっと同じ種類の現場を経験した人、さまざまな現場を経験した人、補助作業が中心だった人、一人で施工まで任されていた人。全部違います。
だから、「3年やっているんだから、これくらいできるだろう」だけで評価するとズレることがあります。
何年やっているかではなく、何を一人でできるのか、何は確認が必要なのか、何をまだ経験していないのか。ここまで細かく見た方が、本人の現在地が分かります。
教える人を変えてみる
技術的な問題なのか、人間関係の問題なのか分からない場合は、一度教える人を変えてみる方法があります。
これだけで変わることがあります。
同じ作業でも、一回見せて覚えさせる人、言葉で細かく説明する人、まずやらせてから修正する人、横について一緒にやる人。教え方は人によって違います。
教わる側にも、見た方が覚えやすい人、自分でやった方が覚えやすい人、理由まで理解した方が覚えられる人。それぞれ違いがあります。
教える側と教わる側の組み合わせが変わるだけで、理解度が変わることはあります。
別の現場に出してみる
もう一つは、環境そのものを変えることです。
特定の現場で評価が低いのであれば、別の現場に出してみる。
そこで普通に仕事ができるなら、元の現場で起きていた問題を改めて考える必要があります。
反対に、現場を変えても、同じ作業でつまずく、同じ注意を受ける、同じように動けなくなる、のであれば、本人側に改善すべきポイントがある可能性が高くなります。
つまり配置変更は、本人を守るためだけではなく、能力を正しく見るためにも使えます。
できていないことは、できていないと伝える
ここも大事です。
自信をなくしているからといって、「全然問題ないよ」「ちゃんとできてるよ」とだけ伝えるのも違います。
実際にできていないことがあるなら、それは伝える必要があります。
ただし、「お前は仕事ができない」ではなく、「この作業については、ここがまだ足りていない」と伝える。
人そのものを評価するのではなく、仕事を評価する。
例えば、「段取りが悪い」ではなく、「材料を取りに戻る回数が多いから、作業前に必要なものを一回確認しよう」とする。
これなら次に何を改善すればいいか分かります。
小さな成功体験を作る
自信を失っている状態で、さらに難しい仕事ばかり任せても、うまくいかないことがあります。
一度、「自分一人で最後までできた」という仕事を作ることも大切です。
簡単な作業から任せる、一つの工程を任せる、できたら次の工程を任せる、少しずつ範囲を広げる。
これは甘やかすという意味ではありません。
いきなり10段階目を要求するより、5 → 6 → 7と上げていく方が、結果的に早く戦力になる人もいます。
「辞めたい」が出てからでは選択肢が少なくなる
自信を失った状態が長く続くと、仕事そのものが嫌になります。
最初は、「この現場が嫌だ」だったものが、「この会社が嫌だ」になり、最後には、「建設業自体が向いていない」になることもあります。
ここまで進んでから会社が動いても、本人の中ではすでに退職する方向に気持ちが固まっていることがあります。
だから、次のような変化には注意が必要です。
・発言が減った
・質問しなくなった
・以前より動きが消極的になった
・自分を否定する言葉が増えた
・特定の人と組んだときだけ様子が違う
こうした変化があれば、一度状況を確認した方がいい。
退職届が出てから人員配置を考えるのでは遅いことがあります。
それでも改善しない場合は、会社側も判断する
もちろん、すべてを環境や教える側の責任にする必要もありません。
教える人を変えた、現場も変えた、仕事を細かく分けた、改善点も具体的に伝えた。それでも、同じミスを繰り返す、仕事を覚えようとしない、指示を守らない、安全上の問題が続く、ということであれば、本人自身の適性や姿勢について判断する必要があります。
会社は学校ではありません。
現場を正常に回しながら、人を育てなければいけません。
だからこそ、「本人が悪い」と最初から決めるのでもなく、「会社が全部合わせる」のでもない。
できる範囲で環境を変え、それでもどうなるかを見る。その順番が重要です。
まとめ
職人から、「自分は仕事ができない」という言葉が出たとき、それをそのまま評価として受け取る必要はありません。
見るべきなのは、何ができないのか、いつからそう感じているのか、特定の現場だけなのか、特定の人と組んだときだけなのか、教える人を変えたらどうなるのか、別の現場ならどうなのか、です。
本人の能力。経験不足。教え方。人間関係。人員配置。
いくつかの原因が重なっていることもあります。
「仕事ができない人」と決める前に、何が原因なのかを一度切り分けてみる。
人手不足だから人を大切にする、というだけではありません。
今いる人間がどこまでできて、どこでつまずいているのかを正しく見ることも、会社が現場を回していくために必要な仕事です。
